ホームカミングデー:MRI実験プロジェクト「脳画像から何がわかるの?」を開催しました
日時:2025年5月10日(土)
会場:国立西キャンパス本館21番教室
プログラム:第1回「脳の機能から考えるこれからの社会科学~中野学長の脳を見ながら」
第2回「機械みたいな脳、脳みたいなAI」
第3回「脳の機能から考えるこれからの社会科学~中野学長の脳を見ながら」
朝から小雨の降る中、一橋大学に新たに導入されたMRI研究にご興味のある卒業生をはじめ多くの方にご来場いただきました。入場者数は約200名と予想を遥かに上回り、BRC一同大変感謝しております。
ご聴講いただいたご卒業生方より「卒業生脳画像データ収集プロジェクト」へ参加したいとお声かけいただきました。
イベント概要
第1回/第3回の講義では、我が国で最も伝統のある社会科学のパイオニアとしての一橋大学が、商、経済、法、社会といった伝統的な学問領域を越えて、「人間とは何か」「社会とはどう構成されているのか」という根源的な問いに、脳科学という視点を交えて再び向き合い、まったく新しい社会科学を創出していくことを伝えました。
イベントでは、中野聡学長ご自身の脳画像データをご提供いただき、脳の機能局在に関する解説を行いました。「社会を考える脳は、どのように働いているのか?」という問いを、実際の脳画像を見ながら共に考える時間は、参加者にとって極めて刺激的なものでした。また、このイベント内で150周年記念企画「卒業生脳画像データ収集プロジェクト」も発表されました。これは、各分野で活躍する一橋大学卒業生の脳画像データを集めたら、何か新しい発見があるのではないでしょうか。ユニークで壮大なこの試みは、今後の展開に向けて参加者を募る形で紹介されました。
第2回の講義では、「人間の脳は機械に似ているのか?」「AIは脳にどこまで近づいているのか?」という、現代科学の最前線にある問いに挑みました。
講義の冒頭では、情報処理の基本構造――「入力→演算→出力」――が、機械と脳の両方に共通する仕組みであることが紹介されました。たとえば視覚の情報処理においては、外界からの刺激が視野を通って脳内の「外側膝状体(LGN)」や「視覚一次野(V1)」などへと送られ、知覚が生まれる過程が解説されました。特に、視覚野における“受容野”や“残効”といった神経細胞の特性が、AIの「畳み込み処理(Convolution)」とよく似た仕組みであることが紹介され、参加者は脳と機械の共通点に驚きの声をあげていました。脳の神経細胞が、少しずつずらしながら似た処理を繰り返し、全体として一つの映像を知覚するように、AIもまた、画像を構成する線や形を識別・処理することで、物体や数字を判別しています。
講義では、機械学習、ディープラーニングといった技術も紹介されました。さらに、近年話題の「生成AI」は、単なる情報の処理にとどまらず、創造的な出力を行っていることも取り上げられ、「AIは創造しているのか?」というテーマにまで話が広がりました。講師は、「脳は決して完璧な存在ではなく、あいまいで不完全なもの」と語りつつ、「だからこそ、人間らしさがあり、AIが目指すべき“最高の模倣対象”になっている」と締めくくりました。人間の脳のしくみとAIの進化を比較しながら、科学的な思考の面白さを体験できました。

