Tsai先生のご講演では、長年にわたり展開されてきた「文化と感情」に関する研究成果が紹介されました。特に、文化的価値観や理想とする感情(ideal affect)が、人々の感情経験や表出、対人行動、さらに脳の働きにまで影響することが、多角的な研究を通じて明らかにされています。たとえばParkら(2018)の研究では、欧米と中国の参加者を対象に、笑顔に対する印象をfMRIで調べた結果、笑顔に対する脳の報酬系の反応の文化差が、「親しみやすさ」の判断の違いを説明することが示されました(Park et al., 2018, Culture and Brain)。さらにBlevinsら(2023)は、こうした文化差に見られる脳活動の特徴が、他の文化や集団にも一般化できるかを検証し、文化と感情の関係が脳の働きにも一貫して表れることを明らかにしています(Blevins et al., 2023, SCAN)。これらの成果は、文化神経科学および社会心理学の分野において重要な示唆を与えるものであり、当日は参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。
さらに、一橋大学の鈴木真介先生のResearch Talkでは、“Learning and decision-making in social context”と題して、一橋大学 社会科学高等研究院 脳科学研究センターに設置されたMRI装置を用いて実施された最新の研究成果をご報告いただきました。
また、早稲田大学の尾野嘉邦先生のResearch Talkでは、“Emotions in political contexts: Measuring affect from candidate faces and campaign materials”と題して、政治家の顔表情分析などの手法を用いた、政治的文脈における感情の役割に関する最新知見をご紹介いただきました。
https://brc.hias.hit-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/09/20251004Symposium-e1760419747168.png15861586Kimikohttps://brc.hias.hit-u.ac.jp/wp-content/uploads/2023/08/header-logo.pngKimiko2025-10-17 12:00:412025-10-17 16:11:02国際シンポジウム開催報告:“Frontiers in Social Science and Neuroscience: Bridging Brain, Behavior, and Society”
Matsumoto, K., Matsuyanagi, K., & Matsumori, K. (2025) Neurotransmitter receptor gene expression patterns associated with reward-related neural representations. Neuroscience Research.
In recent years, neuroscience has expanded to inform questions in social sciences, from how individuals make economic choices to how cultural values shape political and economic decisions. This symposium brings together leading researchers at the intersection of psychology, neuroscience, and political science to explore how neuroscience can inform our understanding of emotion and decision-making in social, cultural, and political contexts. This session highlights both the promise and challenges of applying neuroscience to broader social science fields with the aim to advance our understanding of human emotion and decision-making in real world social contexts.
https://brc.hias.hit-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/09/20251004Symposium1.png22451587Kimikohttps://brc.hias.hit-u.ac.jp/wp-content/uploads/2023/08/header-logo.pngKimiko2025-09-08 18:52:352025-09-11 16:36:5910/4(土)BRCシンポジウム:”Frontiers in Social Science and Neuroscience: Bridging Brain, Behavior, and Society”
本学はこれまで、社会科学分野における国内外のリーダーシップを担う多くの人材を輩出し、深い洞察と批判的思考を備えた研究者や実務家を育成してまいりました。その伝統を礎に、本学社会科学高等研究院(Hitotsubashi Institute for Advanced Study: HIAS)脳科学研究センター(HIAS Brain Research Center: HIAS-BRC)では、脳機能計測と社会科学の知見とを融合させ、人間の意思決定、認知、社会的相互作用といった複雑な行動の神経メカニズムの解明に取り組んでいます。
Sudo, M., & Ishikawa, M. (2025) Children consider unique similarities as more meaningful cues to compatibility in social partnerships. Evolution and Human Behavior.
Vol.1 一橋大学 学長 中野 聡
/カテゴリ: PROJECTABOUT
一橋大学 学長(第18代)
中野 聡
中野先生は、一橋大学法学部卒業後、神戸大学に着任され、その後、一橋大学に戻り、2020年から一橋大学学長を務めておられます。
学生時代、最初は文芸部に所属し、途中からは、演出家を目指して外部の俳優養成所で勉強されていたそうです。完全な文科系であったとのお話でした。
学業の思い出としては、ヨーロッパ社会史の阿部謹也先生の講義が特に印象に残っているそうです。迫力のある授業で、どんな風に物事をおっしゃっていたか、その身振り、手振りがいつまでも記憶に残っているそうです。
一橋大学のMRIに関しては、従来の一橋の研究者が新しいアイデアを持ち寄ってMRIをどんどん使うことで、新しい研究が生まれ、5学部の交流が進むことを期待しているとお話しいただきました。
INTERVIEW
BRAIN
前頭は右が大きくて、後頭は左が大きい、左右非対称性が非常に強い脳です。左の通常、言語野があると言われるあたりが特に大きく見えます。
また、全体でみると、成人男性の平均が1500mlといわれているところ、中野先生は1623mlあり、大きな脳だと言えます。
下の図は、脳内の情報処理を担っている皮質の厚みを表しています。左右の側頭部が特に発達していることが見てとれます。
国際シンポジウム開催報告:“Frontiers in Social Science and Neuroscience: Bridging Brain, Behavior, and Society”
/カテゴリ: EVENT日時:2025年10月4日(土)
会場:一橋大学如水会百周年記念インテリジェントホール
共催:一橋大学 社会科学高等研究院 脳科学研究センター
早稲田大学 政治経済学術院 実験政治学研究部会
スタンフォード大学よりBrian Knutson 先生およびJeanne Tsai先生をお招きし、講演会を開催いたしました。当日は77名の参加者にご来場いただき、盛況のうちに会を終えることができました。
シンポジウムは、一橋大学 社会科学高等研究院 脳科学研究センターの福田玄明センター長による開会のご挨拶で始まりました。また、一橋大学の宮本百合先生が総合司会を務めました。
Knutson先生のご講演では、近年注目を集める「神経予測(neuroforecasting)」研究の中でも、特に神経活動が個人差を超えて集団レベルの行動をどの程度予測できるか(一般化可能性; generalizability)を検証した最新の知見についてご紹介いただきました(Genevsky, Tong, & Knutson, 2025, PNAS Nexus)。少人数の神経データからでも市場レベルの行動予測が可能であることを示した本研究は、マーケティングや公共政策への応用可能性を含め、参加者の大きな関心を集めました。
Tsai先生のご講演では、長年にわたり展開されてきた「文化と感情」に関する研究成果が紹介されました。特に、文化的価値観や理想とする感情(ideal affect)が、人々の感情経験や表出、対人行動、さらに脳の働きにまで影響することが、多角的な研究を通じて明らかにされています。たとえばParkら(2018)の研究では、欧米と中国の参加者を対象に、笑顔に対する印象をfMRIで調べた結果、笑顔に対する脳の報酬系の反応の文化差が、「親しみやすさ」の判断の違いを説明することが示されました(Park et al., 2018, Culture and Brain)。さらにBlevinsら(2023)は、こうした文化差に見られる脳活動の特徴が、他の文化や集団にも一般化できるかを検証し、文化と感情の関係が脳の働きにも一貫して表れることを明らかにしています(Blevins et al., 2023, SCAN)。これらの成果は、文化神経科学および社会心理学の分野において重要な示唆を与えるものであり、当日は参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が交わされました。
さらに、一橋大学の鈴木真介先生のResearch Talkでは、“Learning and decision-making in social context”と題して、一橋大学 社会科学高等研究院 脳科学研究センターに設置されたMRI装置を用いて実施された最新の研究成果をご報告いただきました。
また、早稲田大学の尾野嘉邦先生のResearch Talkでは、“Emotions in political contexts: Measuring affect from candidate faces and campaign materials”と題して、政治家の顔表情分析などの手法を用いた、政治的文脈における感情の役割に関する最新知見をご紹介いただきました。
Panel DiscussionとQ&Aでは、宮本先生の進行のもと、講演内容を踏まえた活発な意見交換が行われ、学際的・国際的な視点から議論が深まりました。
閉会にあたっては、早稲田大学の尾野嘉邦先生より閉会のご挨拶がありました。
本シンポジウムは、文化・感情・意思決定研究の最前線に触れる貴重な機会となり、国際的な学術交流の促進にもつながりました。ご登壇いただいた先生方、そしてご参加いただいた皆様、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
(文責:間野陽子)
査読付き学術誌論文出版:松森嘉織好 特任講師
/カテゴリ: NEWS, RESEARCHMatsumoto, K., Matsuyanagi, K., & Matsumori, K. (2025) Neurotransmitter receptor gene expression patterns associated with reward-related neural representations. Neuroscience Research.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168010225001403
10/4(土)BRCシンポジウム:”Frontiers in Social Science and Neuroscience: Bridging Brain, Behavior, and Society”
/カテゴリ: EVENT【共催】一橋大学 社会科学高等研究院 脳科学研究センター
早稲田大学 政治経済学術院 実験政治学研究部会
スタンフォード大学からBrian Knutson先生, Jeanne Tsai先生をお招きして講演会を開催いたします。
先生方のご紹介にスタンフォード大学のウェブサイトのリンクを貼っております。
Symposium Overview
In recent years, neuroscience has expanded to inform questions in social sciences, from how individuals make economic choices to how cultural values shape political and economic decisions. This symposium brings together leading researchers at the intersection of psychology, neuroscience, and political science to explore how neuroscience can inform our understanding of emotion and decision-making in social, cultural, and political contexts. This session highlights both the promise and challenges of applying neuroscience to broader social science fields with the aim to advance our understanding of human emotion and decision-making in real world social contexts.
<国立キャンパス 交通案内>
アクセス方法はこちら
<建物配置図6番>
建物配置図はこちら
※申込期限:10月 3日(金)正午
事前にお申込みください。
当日の飛び込み参加も歓迎いたします。
創立150周年記念HIAS-BRC応援プロジェクト~社会で活躍する頭脳の構造を科学する~
/カテゴリ: NEWS, PROJECT創立150周年記念HIAS-BRC応援プロジェクトとは
本学はこれまで、社会科学分野における国内外のリーダーシップを担う多くの人材を輩出し、深い洞察と批判的思考を備えた研究者や実務家を育成してまいりました。その伝統を礎に、本学社会科学高等研究院(Hitotsubashi Institute for Advanced Study: HIAS)脳科学研究センター(HIAS Brain Research Center: HIAS-BRC)では、脳機能計測と社会科学の知見とを融合させ、人間の意思決定、認知、社会的相互作用といった複雑な行動の神経メカニズムの解明に取り組んでいます。
本企画では、本学が導入したMRIを使用して卒業生の脳画像データを収集・分析します。これは、社会で活躍する卒業生の「知の源泉」を可視化する、他大学ではできない一橋大学ならではの先進的な取り組みです。
“社会科学と脳科学の融合”という新たな知的フロンティアの実現を通じて、人間理解を深化させ、社会科学の新たな地平を切り拓き、社会全体に新たな価値を還元していく。この目標の達成には、皆様の温かなご支援が何よりも力強い後押しとなります。
多くの卒業生の皆様のご参加をお待ちしております。
企画の概要
目的
データの活用
(いずれもご承諾いただける場合に限定)
参加案内
対象者
実施内容
参加方法
こちらの参加フォームよりお申込みください。
一橋大学特定基金のご案内
[HIAS-BRC支援基金]へのご寄付をお願いしております。
特典
※臨床検査のための撮像ではないので、医師による脳画像の診断は行いません。
査読付き学術誌論文出版:石川光彦講師
/カテゴリ: NEWS, RESEARCHSudo, M., & Ishikawa, M. (2025) Children consider unique similarities as more meaningful cues to compatibility in social partnerships. Evolution and Human Behavior.
https://doi.org/10.1016/j.evolhumbehav.2025.106708
招待講演:日本認知心理学会第23回大会前日イベント:ベーシック&フロンティアセミナー
/カテゴリ: NEWS, RESEARCH日時:2025年5月30日(金)
会場:京都大学稲盛財団記念館
開催形態:対面とオンラインのハイブリッド
講師:宮本百合教授、間野陽子特任講師
宮本百合先生と間野陽子先生が日本認知心理学会第23回大会前日イベントとして開催された「ベーシック&フロンティアセミナー」にて招待講演をおこないました。
国際交流セミナー開催報告:”Social Cognition in Human-Robot Interaction”
/カテゴリ: NEWS日時:2025年5月23日(金)
会場:国立西キャンパス第4研究館
Federico Manzi Universita Tenure Track Assistant Professor, Cattolica del Sacro Cuoreによる講義が開催されました。
研究相談:鹿島建設株式会社のシンガポールに建設された「The GEAR」につきまして
/カテゴリ: NEWS2025/05/23
「The GEAR」では、シンガポール共和国が属する熱帯地域の気候特性を考慮しながら、建物内の半屋外空間をワークプレイスとして活用する「K/PARK」や「SKY GARDEN」を設置しました。自然通風とシーリングファンの組み合わせにより、空調機器を原則使用しない空間でありながら、快適で心地よいワークスペースを提供しているそうです。気流や温熱環境シミュレーション技術を活用し、快適性の評価と設計の最適化を図った建物です。
今後、環境性能や利用者のウェルビーイングに関するデータを蓄積し施設の運営改善に活用していくとともに、環境性能と人の健康に配慮した空間の実現に関する研究開発をおこなっていくということです。
ホームカミングデー:MRI実験プロジェクト「脳画像から何がわかるの?」を開催しました
/カテゴリ: NEWS日時:2025年5月10日(土)
会場:国立西キャンパス本館21番教室
プログラム:第1回「脳の機能から考えるこれからの社会科学~中野学長の脳を見ながら」
第2回「機械みたいな脳、脳みたいなAI」
第3回「脳の機能から考えるこれからの社会科学~中野学長の脳を見ながら」
朝から小雨の降る中、一橋大学に新たに導入されたMRI研究にご興味のある卒業生をはじめ多くの方にご来場いただきました。入場者数は約200名と予想を遥かに上回り、BRC一同大変感謝しております。
ご聴講いただいたご卒業生方より「卒業生脳画像データ収集プロジェクト」へ参加したいとお声かけいただきました。
イベント概要
第1回/第3回の講義では、我が国で最も伝統のある社会科学のパイオニアとしての一橋大学が、商、経済、法、社会といった伝統的な学問領域を越えて、「人間とは何か」「社会とはどう構成されているのか」という根源的な問いに、脳科学という視点を交えて再び向き合い、まったく新しい社会科学を創出していくことを伝えました。
イベントでは、中野聡学長ご自身の脳画像データをご提供いただき、脳の機能局在に関する解説を行いました。「社会を考える脳は、どのように働いているのか?」という問いを、実際の脳画像を見ながら共に考える時間は、参加者にとって極めて刺激的なものでした。また、このイベント内で150周年記念企画「卒業生脳画像データ収集プロジェクト」も発表されました。これは、各分野で活躍する一橋大学卒業生の脳画像データを集めたら、何か新しい発見があるのではないでしょうか。ユニークで壮大なこの試みは、今後の展開に向けて参加者を募る形で紹介されました。
第2回の講義では、「人間の脳は機械に似ているのか?」「AIは脳にどこまで近づいているのか?」という、現代科学の最前線にある問いに挑みました。
講義の冒頭では、情報処理の基本構造――「入力→演算→出力」――が、機械と脳の両方に共通する仕組みであることが紹介されました。たとえば視覚の情報処理においては、外界からの刺激が視野を通って脳内の「外側膝状体(LGN)」や「視覚一次野(V1)」などへと送られ、知覚が生まれる過程が解説されました。特に、視覚野における“受容野”や“残効”といった神経細胞の特性が、AIの「畳み込み処理(Convolution)」とよく似た仕組みであることが紹介され、参加者は脳と機械の共通点に驚きの声をあげていました。脳の神経細胞が、少しずつずらしながら似た処理を繰り返し、全体として一つの映像を知覚するように、AIもまた、画像を構成する線や形を識別・処理することで、物体や数字を判別しています。
講義では、機械学習、ディープラーニングといった技術も紹介されました。さらに、近年話題の「生成AI」は、単なる情報の処理にとどまらず、創造的な出力を行っていることも取り上げられ、「AIは創造しているのか?」というテーマにまで話が広がりました。講師は、「脳は決して完璧な存在ではなく、あいまいで不完全なもの」と語りつつ、「だからこそ、人間らしさがあり、AIが目指すべき“最高の模倣対象”になっている」と締めくくりました。人間の脳のしくみとAIの進化を比較しながら、科学的な思考の面白さを体験できました。